【季節のしおり】家守綺譚
肌寒い秋から、徐々に本格的な冬になりつつあります。
今回は、寒い冬の夜に、そっと寄り添ってくれるような小説をご紹介します。
『家守綺譚』(新潮社) 梨木香歩
今から100年少し前の日本(明治・大正時代)を舞台に、主人公・綿貫征四郎の周りで起こる
摩訶不思議な現象を、泉鏡花を彷彿とさせる流麗な文章で書かれた幻想小説です。
約5、6頁ほどの短編で構成され、季節の花や果実を題材に、ゆったりと物語は進んでいきます。
桜や葡萄など、ぱっと想像しやすい植物や果物が出てくれば、中にはセツブンソウや貝母(ばいも)といった、
あまり聞き慣れない植物も登場し、つい植物図鑑が欲しくなってしまう魅力的な短編集です。
夜毎綿貫に恋うる百日紅、
タツノオトシゴを孕み白銀の竜を孵す白木蓮、
満開の木槿の下に現れて消える聖母、
ふきのとうを探し集める小鬼、
咲き乱れる桜の季節に、暇を乞いにくる桜鬼(はなおに)、
……そんな美しい天地自然の怪異を、綿貫の超然とした、懐深い目線で語られます。
起伏の少ない、常時穏やかな調子で展開される短編ですが、読み進めるうちにじわじわと、子供時代に
感じていた小さな不思議を思い起こさせるような話がいっぱいです。
もしかしたら本当は、これはフィクションなどではなく、かつて私たちのご先祖様はこんな風に、
異界と共存していたのかもしれません。
さらにこの小説での見どころは、床の間の掛け軸から現れる綿貫の亡き親友・高堂との関係。
二人のユーモア溢れる掛け合いも見どころです。
一編一編が短く、静かに進むお話なので、忙しくてなかなか読書ができないという方も、
寝る前にちょっと読むだけでも十分楽しめる本です。
温かいお茶を飲みながら、読んでみてはいかがでしょうか。
担当/三河